テーブルに手料理を並べている徳美が斎に連絡しろと言うので、携帯でかけた。「今、おれがどこから電話してっか分かる?婦長のマンションっスよ」斎は明らかに当感している。「あなた、どうしてそんなことになっちゃったの?」「何だか急展開で、自分でもビックリしてるんスよ」横合いから徳美が手を伸ばしている。携帯を取り上げると、甘ったるい声で誘った。「ねえ、これから引っ越し祝いなのよ。あんた、すぐにこれない?」急に徳美の口調が変わる。「通夜だって?あんたの男が引っ越してきたんじゃないの。そんなものほっぽってこっちにきなさいよ」斎は今日は無理とか何とか言っているらしい。「遅くなってもいいよ。志田ちゃんって、ただけある。からきなさいあんたが惚れほんとうにいい男よ。あたしも気持が若返って、おまけに心丈夫だしね」斎はあれこれと言を左右にしてるようだった。「だって、あんなの男がここにいて、太い毛胆だして座ってんのよ」「はっははは」志田は笑い、徳美も志田の引っ越しが実現したことだけで高揚しており、「じゃ、今uは許したげる。明日は来るのよ」と電話を終えた。このマンシaンに引っ越してきたことで、これまで以上に斎と密接な関係になれると、志田は能天気に考えていた。

何しろ母親のマンションなのだし、川崎の連れ込みホテルなんか利用せずに愛を紡ぎ合えるはずだった。「あんたがいるだけで、このマンションがピカピカして見えるわよ」徳美は満足感とビールの酔いで気持よさげにとろんとしている。志田は徳美の後に廻って肩を採んでやった。「器用だねえ、あんた」指先でつぼを押さえる。「きつくないっスか、お母さん」「いい感じ。ああ、ああ、極楽だ」徳美は嘆息しては何度も極楽を繰り返し、志田は極楽と天国はどう違うのかと考えながら、柔らかく採みほぐしていた。「埴生さんも行きますか」西尾から言われたとき、斎は何のためらいもなく応じた。「ええ、御一緒します」 「やめといたほうがいいんじゃないか。病院と違って、警察の変死体はキビしいよ」 薦田が薄笑いの中に微妙に危惧の色を浮かべている。斎としては今のうちに葬儀に関するあらゆる経験を積んでおこうと、腹に決めていた。いずれ司会の仕事をするにしても現実の遺体に触れておくことは無駄ではなく、どんな遺体であろうと死者の尊厳は守られなければならないとする立場からも、尻込みしてはならないといっていた。

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